論文ストーリーを書いてから実験する

本当は,論文を書いてから実験するのが正しいのです.実験するとどうなるかを自分の頭の中でシミュレートし,"こうなるはずだ" と予測を持つことが大事です.どのような結果が,どのくらいの不確かさを持って発生するかを,数字として書ける程度に想像を固めます.データは架空であっても,論文全体のスケッチを書いてしまうのです.
ちなみにプロの研究者は研究費申請書を頻繁に書きます.申請書は「こうすればうまくいくはずだ.実験はまだだけど」という文書ですから,架空データによる予測論文の一種です.だからプロの研究者は予測論文を書いてから実験するという習慣に慣れています.モーツァルトの「作曲はもうできたよ.あとは譜面に書くだけさ」という言葉どおりの手順を進めるのが本物のクリエーターなのです.
という話にもつながり,自分は修士のころからさんざん「論文はストーリーが大事だ.実験をなんとなくしましたではいけない」と繰り返して言われ,特に「既存の研究と比較して精度が数%上だった,というのにはほとんど意味はない.なぜ向上したのか,そして向上しても解けていない問題はなんなのか,それらはどうすれば解決できそうなのか,そこにこそ研究の価値がある」という考え方を叩き込まれたので,「まず実験してみよう」と考えるのは研究を志す学生としては十分注意したほうがよい.
博士のときの研究で、@taku910さんからアイデアをもらった研究があるのだが、あるとき @taku910 さんがメールをくれて10行くらい箇条書きで「イントロはこう,関連研究はこう,アルゴリズムはこんな感じで,実験はこういう実験をすれば正しさを示せるはず.これで国際会議1本くらいは行けるでしょう.どうでしょうか」という内容を示してもらい,「え,こういうふうにやるんだ?!」と本当にびっくりした.ほとんど穴埋め問題になっていて,しかも穴も調べるだけで分かるという感じ.でも,実際そうやって論文(ストーリー)を書いてから実験をすると,びっくりするくらいスムーズに行くので,たぶん研究のお作法としては,こういう手順でやるべきなんだと思った(それ以降自分もそのスタイルを真似している).どのように穴埋め問題を作るかが出題者の力量が問われるところなのだが,穴が埋まっていない状態の問題用紙を見ただけで,出題者の意図というか,いい問題 (=研究)かどうかが分かるのである.修士では問題解決能力が必要,博士では問題発見能力が必要,とよく言われるが,自分からすると,修士では穴埋め問題に答えられる能力が必要,博士では穴埋め問題を作る能力が必要,とそういうことだと思う.
中田さん生駒日記さんから長く引用しました.「論文ストーリーを作ってから実験する」という考え方は,企業での企画書作りにも通じますね!!